ななつめの井戸レポ

よしなしごとによるリハビリテーション

Blue between sunset et sunrise

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青をみた。

陽が落ちる前の大陸から、陽がのぼる頃の列島に向かって飛んだときのことだ。
往路では夜を迎える列島から、夜の中を飛んで、大陸が昼になるころにたどり着いた。
だから、夜の中がどんなに暗いかはすでに知っていた。
翼の先の心許ない光が、いまにもおぼれそうにまたたいて、雲なんかを通れば掻き消えてしまう。
その黒が、空なのか海なのかは判然としない。とにかく、暗闇の色は往路で知った。
復路、午後の日差しの中を飛び立った。
羊雲を眼下に見下ろし、湾岸の美しい弧を窓の淵で懸命に見ようと額を窓につけ、そうしてやがて眠った。
時差ぼけはそのころにはそうひどくはなかったけれど、前の晩、あまり眠れていなかったから、
意識はどこかに吸い込まれるように、シームレスに、すっと消えてしまった。
どれだけ眠ったかは定かじゃないけれど、まどろみから醒めて、
国際線の楽しみとでも言うべき映画を物色する。何かをみて、合間に顔を上げて、窓をみたときだ。
青があった。
昼の空でもない。薄暮の、少し紫がかった哀愁のある空でもない。
暁を前にした、黄色混じりのそれでもない。
深いという形容をしていいのかもわからない。空に底があるわけでもないから。
紺色や藍色にも似た、明るいような、濃いような、青だった。
どうしてそんな色ができるのか、高度なり緯度なり、理由はありそうだったけれど、
そのあたりはぼくにはとんと分からない。
ただ息を呑んで、それから、なんとか視界からその青を吸い込めやしないかとがんばった。
焼き付けるだなんて、焼いたらなにか焦げとか、付きそうだし。色が変わりそうなことは何一つしたくない。
それに眼底に色がついたところでどうということもなし。
色を、色の質感を、まるごと飲み込んで、あたまに仕舞いこみたかった。
吸えるものなら吸うけれど、あいにく、色は一応、目で見るものなので、仕方がないから一生懸命、視界から吸おうと思った。
(眼球も視神経も、吸ったり吐いたりできないのは分かってる。そういう器官じゃない。知っている。)

青は好きな色だ。ずっと。ぺったりとした平面的な青もいい。
けれども、空の上で見た青は、夢にも見れなかった理想の色だった。
ぼくは目一杯青を吸って、それからこの写真を撮ったのだった。